プリオン病】
(特定疾患治療研究事業における認定基準
平成15年6月18日厚生労働省健康局疾病対策課長通知)
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<プリオン病の分類
  プリオン病はその発症機序から、1.原因不明の弧発性、2.プリオン蛋白遺伝子変異による遺伝性、3.異常プリオン蛋白の伝播による感染性、の3つに大きく分類される。

【主要項目】

1.弧発性プリオン病

1臨床症状
 古典的CJDの臨床病期は一般に3期に分けられる。
(1)第1期:発症は60歳代が中心。倦怠感、ふらつき、めまい、日常生活の活動性の低下、視覚異常、抑鬱傾向、もの忘れ、視覚異常、失調症状等の非特異的症状。
(2)第2期:痴呆が急速に顕著となり、言葉が出にくくなり、意思の疎通ができなくなって、ミオクローヌスが出現する。歩行は徐々に困難となり、やがて寝たきりとなる。神経学的所見では腱反射の亢進、病的反射の出現、小脳失調、ふらつき歩行、筋固縮、ジズトニア、抵抗症、驚愕反応 等が認められる。
2 検査所見
(1)脳波
   非特異的な徐波化
   periodic synchronous dischage(PSD)
   体性感覚誘発電位(somatosensory evoked potential :SEP)でgiant SEP
(2) 脳脊髄液
   神経細胞特異的エノラーゼ(NSE)の上昇
   14-3-3蛋白の上昇
(3) 脳MRI
   拡散強調画像またはFLAIR画像にて病初期より大脳皮質、大脳基底核や
   視床が高信号
   脳萎縮が第3期に急速に進行する。
3 プリオン蛋白遺伝子コドン129番の多型と異常プリオン蛋白タイプによる弧発性CJDの臨床分類
 異常プリオン蛋白は、プロテアーゼ処理後のウエスタンブロット法による泳動パターンの違いからタイプ1とタイプ2に分類される。この異常プリオン蛋白タイプとプリオン蛋白遺伝子コドン129番の多型(MetまたはVal)がCJDの臨床像に影響を与えていることが明らかになり、この2つの組合せにより患者は6つのサブグループに分類されるようになった。それぞれのサブグループの臨床像を表1にまとめた。
4 鑑別診断
 アルツハイマー病、脳血管障害、パーキンソン痴呆症候群、脊髄小脳変性症、痴呆を伴う運動ニューロン疾患、脳炎、脳腫瘍、梅毒、代謝性脳症、等
5 診断基準
 簡便な検査によるスクリーニングや発症前診断は弧発性CJDでは現在のところ確立していない。遺伝性であっても一見弧発性のように見える例があり、正確な診断にはプリオン蛋白遺伝子の検索が必要である。

<CJDの診断基準>

 1.確実例(definite):脳組織においてCJDに特徴的な病理所見を証明するか、またはウエスタンブロット法か免疫組織学的検査にて異常プリオン蛋白が検出されたもの。
 2.ほほ確実例(probable):病理所見・異常プリオン蛋白の証明は得られていないが、進行性痴呆を示し、さらに脳波上の周期性同期性放電を認める。さらに
ミオクローヌス、錐体路または錐体外路徴候,小脳症状(ふらつき歩行を含む)または視覚異常、無動無言状態のうち2項目以上を呈するもの。
 3.疑い例(possible) :ほぼ確実例と同様の臨床症状を呈するが、脳波状の周期性同期性放電を認めないもの。

2.遺伝性プリオン病

<概念>
 表2に示すように、現在まで二十数種の遺伝子変異が遺伝性プリオン病の原因として報告されている。遺伝性プリオン病の代表的な病型に、プリオン蛋白遺伝子102番の変異によるゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病、家族性致死性不眠症、及び家族性CJDがある。

(a)プリオン蛋白遺伝子Pro102LeuによるGSS(GSS102)
 1 概念・疫学
    プリオン蛋白遺伝子コドン102のProlineからLeucineへの変異によるGSS(
    GSS102)は遺伝性プリオン病のうちで最も頻度の高いものであり、遺伝性プ
   リオン病の90%を占める。
 2 臨床症状
    発症年齢は40〜60歳代で、平均約50歳である。初発症状は歩行障害であ
   り、その後に痴呆を伴って両者が緩徐に進行する。神経学的には四肢の小
    脳失調、眼振、構音障害、下肢異常感覚、腱反射の低下、病的反射、痴呆が
   認められる。ミオクローヌスの出現はまれである。全経過は約5〜10年である
   。末期には寝たきりから無動無言状態となり、感染症で死亡する。ただし、上
   記のような典型例の他に痴呆を初発症状とし、比較的急速に進行する亜型
    が存在する。
3 検査所見
  (1)脳波    PSDは約50%に認める。
 (2)脳脊髄液  NSEや14−3−3蛋白の上昇はふつう認めない。
 (3)脳MRI   脳MRIの拡散強調画像またはFLAIR画像にて病初期より大脳           皮質と大脳基底核の高信号が認められることがある。
          初期には脳萎縮はないか、あっても軽度の大脳・小脳萎縮にと           どまるが、病期の進行に伴い、脳萎縮も次第に明らかになる。
4 鑑別診断

 アルツハイマー病、脳血管障害、パーキンソン痴呆症候群、脊髄小脳変性症,痴呆を伴う 運動ニューロン疾患、脳炎、脳腫瘍、梅毒、代謝性脳症、家族性痙性対麻痺、等

5 診断基準
 臨床症状からGSSを疑った場合の診断に最も重要なのはプリオン蛋白遺伝子の検索である。遺伝子変異が認められなければ、少なくとも遺伝性プリオン病は否定して良い。

<GSSの診断基準>
1.確実例(definite):進行性痴呆を呈し、さらに小脳症状か痙性対麻痺を伴う。
 プリオン蛋白遺伝子の変異が認められ、脳組織においてGSSに特徴的な病理所見を証明するか、またはウエスタンブロット法か免疫組織学的検査にて異常プリオン蛋白が検出されたもの。
2.ほほ確実例(probable):臨床症状とプリオン蛋白遺伝子の変異は確実例と同じであるが、病理所見・異常プリオン蛋白の証明が得られていないもの。
3.疑い例(possible) :家族歴があり、進行性痴呆を呈し、小脳症状か痙性対麻痺を伴うが、プリオン蛋白遺伝子の変異や病理所見・異常プリオン蛋白の証明が得られていないもの。

(b)家族性致死性不眠症(FFI)
1 概念・疫学
 Asp→Asnプリオン蛋白遺伝子コドン178にAspからAsnの変異を持ち、コドン129がMet/Metであった場合にFFIを生じる。コドン178にAspからAsnの変異を持っていてもその変異のある同一のアリルの129番の多型がValである場合は臨床症状はCJDとなりFFIとはならない。また、プリオン蛋白遺伝子200番のGluからLysの変異でFFIを生じることもある。男女差はない。日本では数家系が報告されているのみである。

2 臨床症状
 発症年齢は平均50歳である。病初期より進行性不眠、多汗症、体温調節障害、頻脈、血圧調節障害、排尿障害、不規則呼吸等の広汎かつ多彩な自律神経障害と、夜間興奮、幻覚等の精神運動興奮を呈する。病期が進行すると記憶障害、失見当識等の痴呆や譫妄、構音障害、歩行障害を生じ、その他、ミオクローヌス、小脳失調、腱反射の亢進、病的反射が認められる。ただし、不眠を呈さない亜型が存在する。亜急性に進行し、約1年で無動無言状態となり死亡する。

3 検査所見
 (1)脳波
  @睡眠脳波の消失
  APSDは認められない。
 (2)血液検査
  @血清カテコールアミンの上昇
 (3)脳MRIで
  @視床内側に変性を示唆する所見が得られるときがある。

4 鑑別診断
 アルツハイマー病、脳血管障害、脳炎、脳腫瘍、梅毒、代謝性脳症 等

5 診断基準
 臨床症状からFFIを疑った場合に診断に最も重要なのはプリオン性蛋白遺伝子
の検索である。孤発性致死性不眠症の鑑別が重要である。

<FFIの診断基準>
1.確実例(definite):臨床的に進行性不眠、痴呆、交感神経興奮状態、ミオクローヌス、小脳失調、錘体路徴候、無動無言状態などFFIとして矛盾しない症状を呈し、プリオン蛋白遺伝子コドン178の変異を有し、コドン129がMet/Metである。
さらに脳組織においてFFIに特徴的な病理所見を証明するか、またはウエスタンブロット法か免疫組織学的検査にて異常プリオン蛋白が検出されたもの。
2.ほほ確実例(probable) :臨床的にFFIとして矛盾しない症状を呈し、プリオン蛋白遺伝子コドン178の変異を有し、コドン129がMet/Metであるが、病理所見・異常プリオン蛋白の証明が得られていないもの。
3.疑い例(possible):臨床的にFFIとして矛盾しない症状を呈しているが、プリオン蛋白遺伝子変異や病理所見・異常プリオン蛋白の証明が得られていないもの。

 3 感染性プリオン病
 
  概念
    感染性プリオン病には、ヒト由来乾燥硬膜移植等を代表的な原因とする医
   原性クロイツフェルト・ヤコブ病、牛海綿状脳症、罹患牛由来の食品を通じて 
   人に感染した変異型CJD等がある。

 (a)ヒト由来乾燥硬膜によるCJD
 1 概念
     近年、脳外科手術時のヒト由来乾燥硬膜の移植によりCJDが感染したと 
    考えられる患者が多発している。その多くがアルカリ処理をしていないドイツ
    製のヒト死体由来の乾燥硬膜(商品名 Lyodura)を使用していることが証    明されており、医原性感染であることが確実視されている。
 2 臨床症状
     潜伏期は約1〜23年であり、発症年齢は50歳代が多く、弧発性CJDと比    べると若い。初発症状は小脳失調が多く、眼球運動障害、視覚異常の出現    頻度が高い傾向がある。その他の臨床症状に非感染性CJDと違いはなく、    PSDやミオクローヌスが出現する。罹病期間も1−2年で非感染性CJDと差    はない。ヒト由来乾燥硬膜移植によるCJDの約10%の患者は発症1年後に    も簡単な応答が可能であるような緩徐進行性の症状を呈する。
    この場合ミオクローヌスやPSD が認められないことが多い。
 3 診断基準
     医原性CJDの診断基準は弧発性CJDのものに準じる。

 (b)変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)
  1 概念・疫学
   vCJDはBSE罹患牛由来の食品の経口摂取によって牛からヒトに伝播したと 
  考えられている。1944年よりイギリスを中心に発生しており、平成15年2月現  在、累積患者数は140名を越えている。イギリス以外では、フランス、アイルラ  ンド、イタリア、香港、アメリカ、カナダで報告があるが、日本での発症者は見ら  れない。vCJDの全例でプリオン蛋白遺伝子コドン129がMet/Met型である。
 2 臨床症状
   発症年齢は12−74歳であるが、平均29歳と若年であることが特徴である。
  初期には抑鬱、焦燥、不安、自閉、無関心、不眠、強迫観念、錯乱、興奮、異
   常な情動、性格変化、異常行動、記憶障害等の精神症状が中心である。進行
  すると痴呆が徐々に顕著となり、また全例に失調症状を認めるようになる。顔・
  四肢の痛み、異常感覚、感覚障害も高頻度に認められる。ミオクローヌスは認
  められるが、CJDに見られるほどはっきりとはしておらず出現期間・頻度ともに
   少ない。経過は緩徐進行性で罹病期間は平均18ヶ月である。末期には約半数
  が無動無言状態となる。
 3 検査所見
  (1)脳波
      PSDは認められない。
  (2)脳脊髄液
      14−3−3蛋白は約半数で陽性
  (3)脳MRI
      大脳萎縮は通常認められない。
      視床枕に拡散強調画像やFLAIR画像で高信号領域が認められる。(
       視床枕徴候)。同時に視床内側も同時に高信号領域を呈することがある      。(ホッケー杖徴候)
      大脳基底核も高信号領域を呈することがあるが、vCJDでは視床の病
       変の方が大脳基底核よりも明瞭である。
      大脳皮質のリボン状の高信号領域は認められない。
 4 鑑別診断
    他のプリオン病、視床変性症、アルツハイマー病、脳血管障害、脳炎、脳腫
   瘍、梅毒、代謝性脳症 等
 5 診断基準
    WHOによる2001年度版の診断基準を示した。

<変異型クロイツフェルト・ヤコブ病の診断基準>
 
  A.進行性精神・神経障害
  B.経過が6ヶ月以上
  C.一般検査上、他の疾患が除外できる。
  D.医原性の可能性が少ない。
  E.家族性プリオン病を否定できる。
 
  A.発症初期の精神症状 a
  B.遷延性の痛みを伴う感覚障害 b
  C.失調
  D.ミオクローヌスか、舞踏運動か、ジストニア
  E.痴呆
 
  A.脳波でPSD陰性c(または脳波が未施行)
  B.MRIで両側対称性の視床枕の高信号d
 
  A.口蓋扁桃生検で異常プリオン陽性e
  
 確 実 例 : IAと神経病理で確認したものf
  ほぼ確実 : の4/5項目+A+B
           またはT+WA
  疑 い 例 : の4/5項目+A

    a 抑鬱、不安、無関心、自閉、錯乱
    b はっきりとした痛みや異常感覚
    c 約半数で全般性三相性周期性複合波 
    d 大脳灰白質や深部灰白質と比較した場合
    e 口蓋扁桃生検をルーチンに施行したり、弧発性CJDに典型的な脳波所 
      見を認める例に施行することは推奨されないが、臨床症状は矛盾しない
      が視床枕に高信号を認めないvCJD疑い例には有用である。
    f 大脳と小脳の全体にわたって海綿状変化と広範なプリオン蛋白陽性の花
      弁状クールー斑

 


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